2006年10月13日

のちのおもひに

一日の寒暖の差が大きくなり、
秋が深まってくるこの時期に思い出す詩があります。

夏に生まれた淡い想いが
成就することなく秋を迎え
そしてそのまま冬に向かいながら
時の流れにいつしか忘れ果てるかのように・・・。

忘れられない想いは
氷の中に閉じ込め
忘れなければならない
そんな風に自分に言い聞かせているのでしょうか。


のちのおもひに


夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
--そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた・・・

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

     ---立原道造「のちのおもひに」


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Posted by バックG at 11:20│Comments(8)
この記事へのコメント
凍りついたおもひが
僅かな春にとかされ
時に押し流され
風化し、世界に溶けこみ
また新たなおもひとなってよみがえる。



感想の代わりに置いていきます。
夢をみなくなれればいいのに。
たまにそう思いますがそうなったら楽しみが減るのかも。
Posted by 魚 at 2006年10月14日 21:12
可愛いお花♪なんのお花だろう?

忘れたくないと思ったことは忘れなくていいと思うのです。
忘れてしまうのならその程度だったということ。

だって、春になったらまた芽が出ますもん。
雪解けのときは必ず来るのだから。
Posted by いちご at 2006年10月14日 22:49
魚さん

甘酸っぱい夢が苦しい夢に変わることが分かっていても
やはり夢をみたくなることがありますね。
Posted by バック at 2006年10月15日 00:17
いちごさん

花の名前は詩のなかに出てくる「水引草」です。
祝儀袋などに使われる水引に似ているから水引草と呼ばれると言われていますが
本当は花の上側が赤、下側が白なので水引草と名付けられたようです。

成就することが出来ない想いを詠ったのだと思います。
忘れられないけど、忘れたかのように凍らせてしまおうと・・・。
Posted by バック at 2006年10月15日 00:27
おお。この可愛いお花が水引草だったのですね。ありがとうです。

成就することが出来ないのと諦めるのとは違いましたね。失礼しました。
諦めちゃいかんと思ったのですよ。たとえ叶わなくても、絶対に諦めないと。

たとえば亡くなった方に再び会うことは出来ないので、内容にもよるのですが。
Posted by いちご at 2006年10月15日 01:15
こんにちわ^^

静かで柔らかな 落ち着いた言葉の数々。
とってもステキですね。

全てを言葉に 文字に残さなくても
たくさんの季節の風景や
温度や
たくさんの想いを感じます。

そっと手のひらで暖めて
そっと胸の奥に閉じ込めておく
大切な記憶のカケラ みたいですね^^

教えてくださってありがとうございます^^
Posted by Stacie at 2006年10月15日 11:47
いちごさん

成就出来ない想いは辛いですが、
その想いを凍らせて閉じ込めることも辛いですね。
Posted by バック at 2006年10月15日 13:37
Stacieさん

たくさんの言葉にすると逆に伝わらなくなることもあります。
心に浮かんだ言葉にそのときの気持ちを込めているのでしょうが
ひとつひとつの言葉への思い入れが伝わってきそうです。

胸の奥底に閉じ込めてしまった想い・・・
誰にでも必ずあるものでしょう。
Posted by バック at 2006年10月15日 13:59
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